現住建造物等事件の裁判例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。
【事案】
被告人は、息子と2人で居住する本件家屋からの立ち退きを迫られ、本件家屋の住宅ローンを含む多額の夫の借金により本件家屋を失う悔しさや愛着のある自宅を他人に取られたくないなどの思いから、本件家屋に火を放ち、本件家屋とともに自分も死んで消えようなどと考え、本件犯行に及んだ。
裁判所は、被告人を懲役2年6月、その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予するとの判決を言い渡した。
(「名古屋地判平成28年6月24日)」を引用・参照)。
【現住建造物等放火罪について】
(現住建造物等放火)
第108条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
108条はタイトルのとおり「現住建造物等放火罪」について定めています。
現在においても専ら問題となるのは建造物等(「建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑」)の中でも「建造物」に対する放火ですから、以下では建造物を客体とするに場合を想定して解説いたします。
まず、注意すべきなのは、108条は「現に人が住居に使用」する「建造物」と、「現に人がいる」「建造物」をともに処罰する規定になっているということです。
つまり、「建造物」に人が住んでいなくとも「現に人がい」れば現住建造物等放火罪は成立し得るということになり、逆に「現に人がい」なくとも「現に人が住居に使用」していれば同罪は成立するということです。
本件では、被告人は息子と2人で居住している建造物に放火したというのですから、仮に放火時に建造物内に人がいなかったとしても後者の現住性を満たすことになり、現住建造物等放火罪の成立が否定されることはありません。
【現住建造物放火事件における弁護活動】
本裁判例では、刑法27条の2に基づき、刑の一部執行猶予判決が下されています。
もっとも、現住建造物に燃え移る危険性の高いことを認識しながら、同建造物に放火し畳を燃やしたとして現住建造等放火未遂罪が問われたケースにおいて、懲役3年の実刑判決が下された例もあります。
つまり、未遂罪にとどまる場合の方が処断刑が重くなることもあるのであり、未遂だから刑は重くならないだろうと安易に考えるのは禁物といえます。
また、さらに注意すべきこととして、現住建造物等放火罪は(上述のとおり)法定刑として「死刑又は無期」を規定していることから、原則として裁判員裁判対象事件(裁判員法2条1項1号)となります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部は、放火事件を含む刑事事件を中心に扱う法律事務所です。
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