業務上横領罪と「占有」

業務上横領罪と「占有」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋支部が解説します。

【刑事事件例】

Aさんは、愛知県名古屋市名東区内にあるIT企業(V会社)に従業員として勤務していました。
Aさんの仕事内容としては、経理としてV会社の預金(預金口座)を管理することが含まれていましたが、Aさんは約40回にわたり、勝手に会社の預金口座からAさん自身の銀行口座に合計約1億5000万円を送金しました。
その後、V会社が被害を届け出たことで、Aさんは愛知県名東警察署の警察官により業務上横領罪の容疑で逮捕されました。
Aさんは、「横領した約1億5000万円には一切手を付けていない。何とか被害を弁償したり示談をしたりすることはできないか」と話しています。
Aさんの話を聞いたAさんの家族は、被害弁償や示談を含めた業務上横領事件の対応や、業務上横領罪自体について詳しく聞きたいと思い、名古屋市刑事事件に対応している弁護士に相談してみることにしました。
(2020年9月10日に中國新聞に掲載された記事を参考に作成したフィクションです。)

【業務上横領罪とは】

刑法253条は以下のように業務所横領罪を規定しています。

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する(刑法253条)。

業務上横領罪は、被疑者自身が占有(濫用のおそれのある支配)をしている被害者の財物を領得することにより成立する犯罪です。
同じ財産に対する犯罪としては窃盗罪が思い浮かびやすいですが、窃盗罪とは異なり、被害者の占有(事実上の支配)を排除して被害者の方の財物を領得することにより成立する犯罪ではないことが、業務上横領罪の特徴です。

以下では、業務上横領罪が成立するための具体的な要件である「占有」に注目してみましょう。

【業務上横領罪の要件~「占有」】

業務上横領罪の客体(対象)は「自己の占有する他人の物」(刑法253条)です。

まず、V会社の預金が、Aさんにとっては「他人の物」(刑法253条)に該当するということは理解できるでしょう。

業務上横領罪の要件の理解が少々難解な部分は「自己の占有する」(刑法253条)という要件にあります。

業務上横領罪の「占有」(刑法253条)とは、濫用のおそれのある支配力であると考えられています。
濫用するおそれのある支配力を有していればよいことから、業務上横領罪の「占有」(刑法253条)は、物に対する事実的支配に加えて、法律的支配も含むとされています。
法律的支配の分かりやすい例としては、不動産の登記を有している場合が想定できるでしょう。
不動産の登記がある場合、必ずしも不動産に対する事実的支配もあるとは言えませんが、法律的支配があるとして、業務上横領罪の「占有」(刑法253条)に該当するのです。
対して、同じ財産に対する罪である窃盗罪では、「占有」の考え方は物に対する事実上の支配を指すと考えられています。

なお、今回の事例のように、預金を銀行に預けていたという場合には、銀行に預けているお金なのだから、その預金の事実上・法律上支配=「占有」は銀行のものではないかと疑問に思われるかもしれません。
しかし、現在の通説では、預金債権の支配が、性質上金銭その物の支配を同一視できると考えられています。
つまり、銀行に預金しているというケースであっても、その預金を操作できる立場にある場合には、預金に対する「占有」(濫用のおそれのある支配力)(刑法253条)を有していると考えられています(大審院判決大正9年3月12日)。
学説によっては、先に述べたように、銀行に預けている預金は銀行の「占有」のもとにあるとしているものもありますが、現状はこうした考えが通説となっています。

今回の刑事事件例では、AさんはV会社から預金の管理を任されています。
このとき、上記の考え方に照らせば、AさんはV会社の預金口座内の預金について占有(濫用のおそれがある支配)をしていたといえることになります。

刑事事件では、犯罪に当たるかどうかを考える時、この業務上横領罪の「占有」のように、1つ1つ条件の定義を考えた上でそれに当てはまるかどうかを検討し、判断していきます。
自分の行為のどこかどのように犯罪に該当しているのかといったことを正しく把握しておくことも、取調べで意図していない供述をしないようにするなどの防御においては重要なことです。
しかし、こうした検討・判断をするには、刑事事件の経験や知識が必要不可欠ですから、専門家の弁護士の力を借りることをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋支部は、刑事事件を中心に取り扱っている法律事務所です。
名古屋市業務上横領事件でお悩みの場合、刑事事件への対応にお困りの場合は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋支部までご相談ください。

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