昏睡強盗で共犯に問われたら
~ケース~
名古屋市北区在住のAさんは、繁華街においてXの経営する居酒屋の呼び込みを行っていた。
Xの経営する居酒屋は,個室で女性と飲酒・歓談ができるというものであった。
ある日,Aさんは個室内で実際に接客をするBさんから「金持ちそうな客を薬で眠らせて財布からお金を盗ろう」と持ち掛けられた。
Aさんはこれを了承し,お金を持っていそうな客を意図的にBさんにあてがった。
Bさんはお酒に睡眠薬を溶かして客に飲ませ,意識を失った客の財布から現金を盗み,Aさんと山分けするという手口を数件行った。
被害を受けたVさんが愛知県警察北警察署に被害届を出し、AさんおよびBさんは愛知県警察北警察署に逮捕された。
(フィクションです)
~何罪が成立するのか?~
◇Bさんの罪◇
今回のケースでAさんおよびBさんには何罪が成立するのでしょうか。
まず主犯であるBさんについて考えてみましょう。
行為としては財布から現金を盗んだことになりますので窃盗罪(刑法235条)が成立するように思われます。
ところで,BさんはVさんに睡眠薬を飲ませて意識を失わせてから財布から現金を盗んでいます。
この点、刑法239条は「人を昏酔させてその財物を盗取した者は,強盗として論ずる」と昏睡強盗罪について規定しています。
昏睡強盗罪における「昏酔」とは,薬物などによって,人の意識作用に一時的又は継続的な障害を生じさせることをいいます。
今回のケースでは、睡眠薬をお酒に混ぜてVさんを眠らせていますので、BさんはVさんを「昏酔させた」といえるでしょう。
人を昏酔させる手段は問われませんが,暴行によって昏酔させた場合には昏酔強盗罪ではなく通常の強盗罪が成立します。
なお,人を昏酔させることは「傷害」に該当しますが,昏酔強盗罪の要件となっていますので別途強盗致傷罪(刑法240条)を構成することはありません。
したがってBさんには昏酔強盗罪が成立します。
◇Aさんの罪◇
ではAさんには何罪が成立するのでしょうか。
Aさんは客引きをし,Bさんにお金を持ってそうな客をあてがったに過ぎません。
風営法や条例などの違反を考慮に入れなければ行為そのものは犯罪とはならないでしょう。
ところで,AさんはVさんをBさんにあてがったのですから,Bさんの昏酔強盗罪の共犯とはならないでしょうか。
共犯には「二人以上共同して犯罪を実行する」共同正犯(刑法60条),「人を教唆して犯罪を実行させる」教唆犯(刑法61条1項),正犯の犯罪遂行を容易にする幇助犯(刑法62条)の3類型があります。
AさんはBさんを教唆(そそのか)し犯罪を実行させたわけではないので教唆犯とはなりません。
したがってAさんは共同正犯となるのか幇助犯にとどまるかが問題となります。
この点について,Aさんが客引きをし,Bさんに客をあてがう行為は、Bさんの実行行為を容易にする行為に留まらず,Aさんが実行行為を行うにつき必要不可欠な役割であったといえるでしょう。
また,AさんとBさんは事前に共謀しており窃取した現金も山分けしているという点からも、AさんはBさんと共同正犯となると考えられます。
~弁護活動~
昏酔強盗罪は強盗として論じられますので、法定刑も強盗と同様になり5年以上の有期懲役となります。
Aさんは共同正犯となりますのでAさんも5年以上の有期懲役となります。
執行猶予を付すことが出来るのは3年以下の懲役の場合ですので,昏睡強盗罪で起訴され刑事裁判となった場合,そのままでは執行猶予を付すことが出来ません。
しかし,刑法66条は「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは,その刑を減軽することができる」と定めています(酌量減軽)。
酌量減軽は,法定刑の最低をもってしても刑罰が重い場合にすべきとされています。
今回のケースでは、法律上は強盗として論じられますが,行為態様は一般的な強盗のような凶悪なものではなく,5年以上の懲役刑を科すことは重すぎるといえるでしょう。
そのため,弁護士としては裁判官に酌量減軽を求めていくことが考えられます。
酌量減軽が認められれば,法定刑を2分の1とすることができ(刑法68条),執行猶予を付すことが出来ます。
また,今回のようなケースでは犯行態様が悪質ではないので,被害者の方と示談を成立させることができれば起訴猶予となる可能性もあります。
ただし,窃盗などと異なり犯罪類型としては重いものですので、示談を成立させていても起訴されてしまう可能性はあります。
逮捕されてしまった場合には,今後の見通しなども含め,刑事事件に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件専門の法律事務所です。
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