無賃乗車と成立する犯罪

無賃乗車と成立する犯罪について、あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。

【事案の概要】

名古屋市瑞穂区在住のAさんは、名古屋市中村区にある会社に地下鉄で通勤しています。
あるとき、日々の電車代を節約したいと考えたAさんは、最低運賃の切符を購入して入場し、降車する際は、改札を出ようとする目の前の客にピッタリとついていくことで改札を通過し、電車代を節約する方法を思いつきました。
実際に何度か試したところ、駅員にバレなかったため、数ヶ月にわたって上記方法による乗車を繰り返しました。
しかし、Aさんの改札を出る様子を不審に思った駅員が愛知県中村警察署に相談し、Aさんは自宅最寄り駅の瑞穂区役所駅で張り込んでいた愛知県瑞穂警察署の警察官に呼び止められ、取り調べを受けることになりました
。後日再び取調べを受けることになったAさんは、今後の見通しなども含め、弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

【今回のケースは無賃乗車にあたる】

今回のケースのように、出発地では入場券を購入して最低運賃で改札を通り抜け、目的地ではほかの乗客に紛れて改札を受けずに場外へと出る行為は、本来支払うべき運賃を免れているため、無賃乗車にあたります。
今回のケースと同様の手口で、数十万円もの電車代の支払いを免れたとして検挙された事案も存在します。
無賃乗車などの不正乗車が発覚した場合、鉄道営業法第18条および鉄道運輸規程第19条により、その乗車区間に相当する運賃とその2倍以内の増運賃(合計で3倍以内の額)が請求されますが、これは民事上の問題です。
刑事については、後述するような複数の問題があります。

【どのような犯罪が成立する?】

無賃乗車については、適用される法律が一概に決まっておらず、状況に応じて適用される法律が異なっています。
まず、駅係員や乗務員が直接切符を確認するような駅で無賃乗車を行った場合、人を欺いて本来支払うべき運賃を免れていることになるため、財産上不法の利益を得たとして、刑法第246条2項の詐欺罪(「2項詐欺罪」といいます)に該当することが考えられます。

刑法
第二百四十六条 
1 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

しかし、現在では自動改札機を設置している駅がほとんどであるため、2項詐欺罪が問題になることは少ないです。

次に、今回のケースのように自動改札機を利用した無賃乗車については、刑法第246条の2の電子計算機使用詐欺罪が成立することが考えられます。
電子計算機使用詐欺罪は、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えて、財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作ること等によって、財産上不法の利益を得ることで成立し、罰則として「十年以下の懲役」が規定されます。

第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

自動改札機を用いた無賃乗車に同罪の成立を認めるべきかについては争いがある一方、過去の裁判例には同罪の成立を認めたものもあります。
今回のケースだと、Aさんが不正な手段で改札を通過したことで、自動改札機に虚偽の情報を与えたとして電子計算機使用詐欺罪が成立する可能性があります。
また、有効な切符によらないで入場した場合には、刑法第130条の建造物侵入罪、鉄道営業法第29条違反や軽犯罪法第1条32号違反が問題となります(なお、鉄道営業法第29条は同法第30条の2により親告罪となっており、罰則についても罰金等臨時特措法第2条の規定によって「2万円以下の罰金または科料」と読み替えることになっています)。
今回のケースでは、Aさんは本来必要な切符を購入することなく駅構内への入退場や電車の利用を行っているため、上記の犯罪が成立することが考えられます。

刑法
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

鉄道営業法
第二十九条 鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ五十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 有効ノ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ
二、三 (略)
罰金等臨時措置法
第二条 刑法(明治四十年法律第四十五号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪(条例の罪を除く。)につき定めた罰金については、その多額が二万円に満たないときはこれを二万円とし、その寡額が一万円に満たないときはこれを一万円とする。ただし、罰金の額が一定の金額に倍数を乗じて定められる場合は、この限りでない。

軽犯罪法
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
一~三十一 (略)
三十二 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者

他にも、行為態様によっては、刑法第234条の威力業務妨害罪などが成立する場合もあるなど、無賃乗車は様々な犯罪が成立する可能性がある行為といえます。

【具体的な弁護活動】

少しでも刑事処分を軽くしたいと考える場合、弁護士による鉄道会社との示談交渉が重要になります。
鉄道営業法29条については親告罪なので、鉄道会社との示談で告訴を取り下げてもらうことができれば、事件化を回避すること(不送致処分)ができます。
電子計算機使用詐欺罪や建造物侵入罪、軽犯罪法1条32号違反については親告罪ではないものの、示談締結ができれば不起訴処分を獲得することも可能です。
特に電子計算機使用詐欺罪については、罰則が「十年以下の懲役」であり罰金刑が定められておらず、起訴されれば必ず正式裁判となるため、不起訴処分の獲得や仮に起訴された場合の執行猶予の獲得には、示談締結が非常に重要になります。

無賃乗車をしてしまい警察の取り調べを受けた、またはその予定がある方など、お困りの方は早めに弁護士に相談しましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部は、年間多数の刑事事件への対応をしてきた刑事事件専門の法律事務所です。
是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部にご相談ください。

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