共同正犯と錯誤

共同正犯と錯誤について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。

AさんはBさんから、Vさん宅に立ち入って盗みをすることを持ちかけられこれを承諾しました。そして、Aさんは犯行日当日、BさんがVさん宅に立ち入って盗みをする間、警察などが来ないかどうか外で見張りをしていました。ところが、後日、警察にAさんとBさんによる犯行であることが発覚し、Aさんは住居侵入、窃盗罪、Bさんは住居侵入、強盗罪で通常逮捕されてしまいました。
(フィクションです)

~共同正犯とは~

2以上共同して犯罪を実行した場合を「共同正犯」といいます。

刑法60条
 2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

正犯あるいは正犯者とは、犯罪(基本的構成要件)に該当する行為(実行行為)を行う者のことをいいます。刑法60条は、意思の連絡(共謀)の下に複数の者が関与した事案において、自己の犯罪を犯したと評価し得る重要な関与者を正犯とし、他人(Bさん)の実行行為及び結果につき、共同して行えば全て帰責される(刑事責任を負わされる)とう「一部行為の全部責任の原則」を認める規定です。

~共同正犯の成立要件~

それでは、共同正犯が成立するためにはいかなる要件が必要なのでしょうか?言い換えれば、他人が行った行為及びそれによって作出された結果を仲間内である共犯者にも帰責させるための要件とはいかなるものなのでしょうか?
共同正犯が成立するためには、主観的要件としての「共同実行の意思(意思の連絡=共謀)」、客観的要件としての「共同実行の事実」が必要です。

共同実行の意思とは、共同して実行行為をしようという意思のことをいいます。共同加工の意思ともいわれます。共同実行の意思は、2人以上の行為者全員が相互に持たなければなりません。したがって、甲がVに暴行を加えている間、甲の知らない間に乙がVの財布を盗んだという場合、窃盗罪(あるいは暴行罪)の共同正犯は成立しません。
共同実行の事実とは、共謀した行為者が実行行為を分担することであり、共同加功とか行為の分担ともいわれています。

~共犯正犯の錯誤とは~

ところで、本件では、Aさんは窃盗罪、Bさんは強盗罪と異なる罪で逮捕されています。
これは、Aさんは窃盗をする意思があった、Bさんは強盗をする意思があったという共犯者の認識の違いが原因です。
このように、共犯者(Aさん)が認識していた事実の内容(窃盗罪)と、正犯者(実行行為者)の実行(強盗)との間に食い違いがある場合を「共犯の錯誤」と呼んでいます。

では、「共犯の錯誤」があった場合、実務ではどのように処理、解決されているのでしょうか?
この点、判例は、共同行為者相互間の認識の不一致が同一構成要件内にあるとき、共同正犯の故意は阻却されないとしています。
他方、共同行為者間の認識の不一致が異なる構成要件にまたがるときは、原則として共同正犯の故意は阻却され、ただ、それぞれの構成要件が重なり合うときのみ、その重なりあう限度で共同正犯が認められるとしています。

本件の場合、後者の「共同行為者間の認識の不一致が異なる構成要件にまたがるとき」に当たります。構成要件とは、ここではとりあえず「罪」と理解してください。そして、Aさんは窃盗罪の認識、Bさんは強盗罪の認識であることから両者の認識に不一致が生じています。したがって、強盗罪の共同正犯の故意は阻却されますから、強盗罪の共同正犯は成立しません。次に、窃盗罪と強盗罪の違いは、その手段として暴行、脅迫を用いるか用いないかの違いだけで、後は同じです。つまり、両者は窃盗罪の範囲で重なり合っているといえます。したがって、共同正犯は窃盗罪の範囲でのみ成立することになります。

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