食品衛生法違反で故意否認なら
~食品衛生法違反で故意否認について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します~
~ケース~
名古屋市北区で小料理屋を営んでいるAさんは,常連客に市場にあまり流通しない珍しい魚を提供することで有名であった。
ある日,Aさんが魚市場で珍しい魚はないかと漁師Xに尋ねたところ,「脂の乗った美味しい魚がある」と言われ刺身を一切れ試食した。
大トロのような脂の乗った刺身で美味であったため,Aさんは鮪の一種であると思い,この魚を漁師Xから購入し持ち帰った。
後日,Aさんは自身の料理屋で常連に対し購入した魚の刺身を提供した。
ところが,刺身を食べた常連客が健康被害を保健所に訴え,Aさんは食品衛生法違反の疑いで事情を聞かれることになった。
この魚は実はアブラソコムツという魚であり,食品衛生法で販売が禁止されている魚であった。
(実際にあった事件を基にしたフィクションです)
~アブラソコムツ~
アブラソコムツは食べると非常に美味であると言われています。
しかし実はこの魚には人の身体では消化できない脂を含んでおり,ほんの少量であれば問題ない場合もありますが,食べてしまうと消化できなかった脂がお尻から垂れ流しになってしまいます。
そのため,アブラソコムツおよびバラムツは厚生省の通達により食品衛生法6条2項のいう有害な物質が含まれる食品にあたるとされています
そして、アブラソムコツおよびバラムツを販売することは食品衛生法第6条2項によって禁止されており,罰則は3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっています(同法71条)。
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~故意と錯誤~
刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は,罰しない。」と規定されています。
ただし,法律の不知,すなわち罪になると知らなかった場合には,罪を犯す意思がなかったとはいえないとされています(同条3項)。
罪を犯す意思,すなわち犯罪を犯す故意がない場合には罰せられないという規定であり,Aさんはアブラソコムツであると認識していなかったのでAさんに故意があったといえるのかが問題となります。
このような事実の錯誤の有名な事件として「たぬき・むじな事件」と「むささび・もま事件」があります。
たぬき,むささびは両者とも捕獲が禁止されているところ,たぬきを「むじな」であると認識して捕獲した事件,むささびを「もま」であると認識して捕獲した事件です。
前者は故意がないとして無罪,後者は単なる法律の不知であると有罪との判断が下されました。
前者は,当時(100年程前です),「むじな」はたぬきとは別の動物であるという認識が一般的であり,当事者も「むじな」という動物であるという確信的な認識でたぬきを捕獲したのであり,「たぬきを捕獲する」という故意があったとは言えないという判断が下されました。
一方後者は,「もま」は単なるむささびの方言であり,「もま=むささびであることを知らなかっただけ」で違法であることを知らない,すなわち単なる法律の不知に過ぎないと判断されました。
~Aさんの場合~
今回のケースでAさんはアブラソコムツをマグロの一種であると誤認して客に提供しています。
そのため,たぬき・むじな事件のように故意がなかったとして無罪となるか,むささび・もま事件のように単なる法律の不知にすぎないと判断されるかが問題です。
ところで,アブラソコムツおよびバラムツは海釣りで釣った魚を食べる愛好家の間では“美味しいが食べてはいけない魚”として有名なようです。
Aさんは単に提供した魚がアブラソコムツであるということを知らなかっただけですので,販売が禁止されていることを知らなかったに過ぎない,すなわち単なる法律の不知であると判断される可能性が非常に高いです。
また,Aさんは食品を客に提供する立場ですので,食品衛生法3条により食品の安全確認の努力義務が課せられています。
したがって,Aさんに故意がなかったと主張するのは難しそうです。
ただし,刑法38条3項では、「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる」とも定められています。
今回のケースでは,Aさんは自分には(一切れしか食べなかったので)症状がでなかったため安全な魚であると思い込んだといった事情などを情状として主張することになるでしょう。
「罪になると思わなかった行為」が単なる法律の不知なのか,実際に故意がなかったとして罰せられないかは事情によって異なります。
どちらの場合でも取調べの内容によって故意があったと認められたり,認識があったと判断されてしまう可能性があります。
「罪になると思わなかった行為」によって逮捕されてしまったり,警察から事情を聞かれることになった場合には0120-631-881までお気軽にご相談ください。
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