煽り運転・傷害行為に対して正当防衛主張なら
~ケース~
名古屋市千種区在住のAさんは、名古屋市千種区内の道路で後方からVにいわゆる煽り運転をされた。
しばらくして,信号待ちで停車したところ車から降りて来たVによって運転席の窓ガラスを叩かれ「おい,開けろや」などと怒声を浴びせられた。
怖くなったAさんは,信号が青になった瞬間に,Vから逃げようと車を発進させた。
その際,ドアミラーを掴んでいたVが転倒し,全治2週間程度の怪我を負った。
後日Aさんは傷害罪の疑いで愛知県警察千種警察署において事情を聞かれることになった。
(フィクションです)
~傷害罪~
傷害罪は刑法204条に「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定められています。
今回のケースでVは怪我をしていますので,傷害罪の構成要件に該当します。
~正当防衛ではないのか~
しかし,AさんはVに煽り運転をされ,その後降りてきて運転席の窓ガラスを叩くなどの行為をされたことによって怖くなって逃げようと車を発進させています。
そのため,Aさんには正当防衛(刑法36条1項)が成立しないでしょうか。
正当防衛の条文は「急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。」となっています。
正当防衛が成立するには急迫不正の侵害が前提条件となっています。
侵害とは,権利すなわち法益を侵害する危険をもたらすものをいい,不正とは違法であることを意味します。
そして不正の侵害は急迫したものでなければいけません。
つまり,被侵害者の法益が侵害される危険が切迫したものであることが必要です。
この点,Aさんは煽り運転を受けており,停車したところVから運転席の窓ガラスを叩かれるといった有形力の行使(=暴行)を受けていたと考えることが出来ます。
そのため,Aさんには急迫不正の侵害が迫っていたといえるでしょう。
また,Aさんは怖くなってVから逃げるために車を発進させたのですから防衛のためにした行為であるといえるでしょう。
それでは「やむを得ずした」とはどのような場合をいうのでしょうか。
正当防衛は緊急避難(刑法37条)と異なり,法益保護のために他に手段がないことまでは要求されていません。
そして,防衛行為の結果生じた法益侵害が,それによって回避した法益侵害よりも,侵害性において大であっても,そのことによって正当防衛は否定されません。
しかし,「防衛の程度を超えた」過剰防衛が刑法36条2項に別途規定されていることから,許容される防衛行為には限度があります。
~Aさんに正当防衛は成立するのか~
では,今回のケースでAさんに正当防衛は成立するのでしょうか。
Aさんは特に怪我などしていない一方,Vは怪我をしてしまっていることが問題となるでしょう。
この点について,判例は,反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上,反撃行為によって生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても,その反撃行為が正当防衛でなくなるものではないとしています(最判昭和44・12・4刑集23巻12号1573頁)。
最近の裁判例では,車内に手を入れられ,急発進させ,相手方の頭を轢き死亡させてしまったという事案で,裁判所は正当防衛の成立を認めています(東京地裁立川支部平成28・9・16)。
今回のAさんの場合も,似たような事案ですので正当防衛が認められる可能性は高いでしょう。
しかし,正当防衛が認められるには,正当防衛となることを適切に主張する必要があります。
正当防衛を正しく主張するには刑事事件に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件専門の法律事務所です。
あおり運転に対する行為で罪に問われ,正当防衛の主張をお考えの方は0120-631-881までお気軽にご相談ください。
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