偽計業務妨害事件の弁護活動

偽計業務妨害事件の弁護活動

偽計業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋支部が解説します。

【事件】

Aさんは動画サイトに動画をアップロードし,広告料収入を得ながら生活していました。
より多くの再生回数を狙える動画を作成するため,小麦粉を封入したポリ袋を愛知県名古屋市所在の交番の前で落とし,違法薬物と誤認した警察官の姿を撮影しようとしました。
狙いどおりAさんは警察に追跡されました。
撮影を終えた後も薬物検査や臨場等が行われ,粉末が小麦粉であると判明するまでの約5時間にわたって対応が行われました。
これにより,警察官計20名の業務の遂行を妨害したとして,Aさんは偽計業務妨害罪の疑いで取調べを受けることになりました。
(フィクションです)

【偽計業務妨害罪】

虚偽の風説を流布し,または偽計を用いて人の業務を妨害した場合,偽計業務妨害罪(刑法第233条後段)として処罰される可能性があります。
偽計業務妨害罪の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

偽計業務妨害罪における業務とは,人が社会生活上の地位に基づいて継続して従事する事務または事業をいいます。
つまり、経済活動に限らず、様々な社会的活動が偽計業務妨害罪による保護の対象になりえます。
たとえば、利潤の追求を目的としないNPO法人の活動を妨げた場合にも、偽計業務妨害罪に当たる可能性があります。
また,条文では「業務を妨害した」とされていますが,実際に売上の低下などの結果が生じる必要はなく、その危険を持つ行為のみを以て成立すると考えられています。

次に,虚偽の風説の流布とは,客観的事実に反することを不特定または多数の人に伝播させることをいいます。
そして、偽計とは,人を欺罔,誘惑し,あるいは人の錯誤や不知を利用する違法な手段のことです。

今回のケースはAさんが薬物犯罪を装ったために警察官の刑事当直や警ら活動などが妨害されたというものです。

このような警察官の活動は公務といえますが,公務も業務に含まれるのかが問題となります。
というのは,警察官の活動は公務執行妨害罪の適用を受けるものであり,偽計業務妨害罪の適用を認める必要はないように思えるからです。
この点に関して,警察官の活動に偽計業務妨害罪が成立するという判断を下した裁判例が存在します。
理由は定かではありませんが,公務執行妨害罪の要件は暴行・脅迫であり、虚偽の風説の流布や偽計には対応できないからではないかと考えられます。

今回のケースで,Aさんは小麦粉を違法薬物に見せかけ,警察に捜査の手間をとらせています。
このような行為は警察の正常な公務を妨げると言えることから、Aさんに偽計業務妨害罪が成立する可能性は高いでしょう。

【公務執行妨害罪・軽犯罪法違反】

先ほど触れましたが,警察官などが行う公務を妨害する犯罪として,公務執行妨害罪(刑法第95条第1項)が挙げられます
公務執行妨害罪は,公務員が職務を執行するにあたり,これに対して暴行または脅迫を加えた場合に成立する罪です。
法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
今回のケースでは,Aさんは警察官に対し暴行や脅迫を行った事実が概要からは認められません。
そのため,公務執行妨害罪には当たらない可能性が高いと言えます。

また,軽犯罪法第1条第31号は,「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」を拘留または科料に処すると定めています。
この犯罪は公務執行妨害罪や業務妨害罪の補充規定で,違法性の低い場合に適用されるものとされています。

簡単に言うと「悪戯」のレベルにとどまる場合に限って適用される可能性があるということで,Aさんの事件では約5時間にわたって併せて20名の警察官の業務が妨害されています。
そうすると,悪戯の程度を超えたものと判断され,軽犯罪法違反ではなく偽計業務妨害罪などとされる可能性が高いでしょう。

【弁護の方針】

業務妨害事件や公務執行妨害事件では,犯行態様が比較的軽微な場合,十分な反省を示したり示談を成立させたりすることで不起訴や執行猶予を得られる可能性が高いと言えます。
また,被疑者が捜査機関に逮捕・勾留されている場合,弁護士としては上記の活動と並行して早期の身柄の解放を目指します。
主に、逃亡や証拠隠滅を防止するための方策を講じたうえで、そうした行為に及ぶ可能性が低いと主張することになるでしょう。
加えて,取調べを受ける被疑者に法的なアドバイスを行うことも,自身に与えられた権利の内容やどう行使していいか分からない状況を回避し,捜査機関に都合のいい内容の調書の作成を阻止することにつながります。

偽計業務妨害罪の被疑者となってしまった方,瑞穂警察署で取調べを受けることになってしまった方は,お早めに刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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