子どもが逮捕後釈放されたら安心なのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。
名古屋市名東区に住むAさん(16歳)は痴漢事件を起こしたとして名東警察署に現行犯逮捕されてしまいました。しかし、その後、Aさんの母Bさんが名東警察署に身元引受人として迎えに行ったことから、Aさんは勾留されることなく釈放され、その日のうちに帰宅することを許されました。Bさんは、Aさんが逮捕直後に釈放されたことから、今後、Aさんが警察や検察から呼出しを受けることはないと考えています。
(フィクションです。)
~愛知県の痴漢~
痴漢行為によって成立する犯罪は、その多くが各都道府県の定める迷惑防止条例違反か強制わいせつ罪(刑法第176条)のいずれかです。
愛知県迷惑行為防止条例では、第6条において「何人も、公共の場所又は公共の乗物(…)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。」とし、その第1号において「人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(…)の上から触れること」としています。
「触れ」ることが迷惑防止条例違反の要件になりますので、胸やしりなどを撫でまわしたり揉んだりしていなくても、被害者が羞恥心や不安を覚える方法で身体に触れていれば、たとえば他人の身体に手などを押し付ける行為も痴漢として処罰されます。
愛知県における法定刑は、通常の場合1年以下の懲役または100万円以下の罰金で、常習の場合ですと2年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。
他方、強制わいせつ罪を定める条文は「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」となっています。
強制わいせつ罪におけるわいせつな行為とは、たとえば陰部・乳房・尻・太もも等に触れたりもてあそんだりする行為、裸にして写真を撮る行為、無理矢理キスしようとする行為などが考えられます。
加えて、被害者に行為者自身の性器等に触れさせる行為も、わいせつな行為に含まれると考えられます。
また、強制わいせつ罪における暴行・脅迫は、被害者の反抗を著しく困難にする程度に強いものでなければならないというのが有識者の多数説です。
ただ、実際のところ、痴漢被害にあっていることを周囲に知られたくなかったり、より悪質な行為をされないかという恐怖心などから反抗できない心理状態が比較的容易に形成されることも事実です。
このことから、裁判においては、様々な事情を考慮して反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫があったと比較的容易に認定される場合が少なくありません。
上記のいずれが適用されるかという点は、具体的な痴漢行為の内容に左右されます。
一般的には、衣服の上から被害者の陰部やしり、もも、胸を触ったり揉んだりした場合は迷惑防止条例違反として扱われる場合が多いです。
一方で下着の中に手を入れるなどして直接陰部を触った場合は強制わいせつ罪になる場合が多くなります。
これらは飽くまで一般的な傾向に過ぎず、衣服の上から触った場合でもその態様などがかなり悪質性の高いものであれば強制わいせつ罪に問われる可能性もあります。
~逮捕から家庭裁判所送致まで~
警察に逮捕されると、少年であっても警察の留置場(留置施設)に収容されます。
逮捕後の流れは、
①逮捕
↓
②警察官による弁解録取→釈放
↓
③送致(送検)
↓
④検察官による弁解録取→釈放
↓
⑤検察官による「勾留請求」OR「勾留に代わる観護措置請求」
↓
⑥勾留質問→釈放
↓
⑦裁判官による「勾留決定」OR「勾留に代わる観護措置決定」
という手続を踏みます(なお、この間、不服申し立て等により釈放を早めることも可能です)。
①から⑦まで概ね3日間を要します。
なお、②の段階、③の段階、⑥の段階で釈放されることがあり、Aさんは④あるいは⑥の段階で釈放されています。
なお、⑦勾留決定があった場合は、逮捕された際に収容された留置場へ収容されるでしょう。
⑦勾留に代わる観護措置決定があった場合は指定された少年鑑別所へ収容されます。
勾留の期間は、検察官の勾留請求があった日から「10日間」で、その後、やむを得ない事由がある場合は最大「10日間」延長されることがあります。
観護措置の期間も請求の日から「10日間」ですが、延長は認められていません。
拘束された少年は上記の期間内に警察や検察の捜査を受け、事件を⑤家庭裁判所へ送致される手続を取られます。
~釈放されても安心はできない~
お子さんが逮捕されてしまったら、大きく混乱し、不安に思われる親御さんが多いでしょう。
だからこそ、その後、釈放されたとなればその時点で安心してしまい「これで事件は終わった」と考えてしまうことも無理はありません。
もっとも、釈放されたからといって事件が終わったということではなく、安心はできません。
逮捕直後に釈放された場合でも、その後、警察、検察庁から呼出しを受け、出頭して取調べを受ける必要があります。
捜査が終わった後は、事件が家庭裁判所へ送致され、家庭調査官の調査などを経た上で、少年審判を受けなければならない可能性もあります。
少年審判では、基本的に、保護観察、少年院送致などの保護処分が下されます。
保護処分を受けた後は、処分に応じた対応が必要となります。
このように、釈放されたら事件は終わりではないということは肝に銘じておくべきでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は、まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。24時間、無料法律相談、初回接見サービスの予約受付を承っております。