職務質問から覚醒剤所持が発覚した事件を参考に、所持品検査の判例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。
参考事件
Aさんは、名古屋市内の飲み屋街を歩いていたところ、警察官から職務質問を受けることとなりました。
警察官は「持っているバッグの中を見せてください。」とAさんに求めるも、Aさんはこれを頑なに拒否するも、問答の末に荷物検査に応じることとなりました。
警察官は、Aさんのバッグを開いて中を一瞥したところ、粉末の入ったパケットと注射器が見つかり、怨嗟の結果、覚醒剤であることが判明しました。
Aさんは愛知県中警察署に、覚醒剤取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
覚醒剤所持罪(覚醒剤取締法第41条)
覚醒剤取締法第41条の2第1項は、「覚醒剤をみだりに所持する行為」につき、10年以下の懲役と規定されています。
法定の除外事由(覚醒剤取締法第14条参照)がないのに、携行しているバッグの中に覚醒剤を入れておく行為は、当然に「覚せい剤をみだりに所持する行為」と判断されることになるでしょう。
覚醒剤使用罪(同法第19条)
覚醒剤の使用も原則として禁止されています。
覚醒剤を使用した場合「10年以下の懲役」(同法第41条の3第1項第1号)という刑罰が規定されています。
所持品検査の限界
職務質問による所持品検査の中で、警察官が強制的にバッグを開いて中身を確認するようなケースもあります。
このような手続は適法ではありません。
職務質問を行う根拠である警察官職務執行法第2条1項には、「不審な者を停止させて質問することができる。」と記載はあるものの、所持品を検査することができるとは明記されておらず、所持品検査に付随する行為として認められています。
所持品検査の判例(最高裁昭和53年6月20日判決)
「職務質問に附随して行う所持品検査は、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される場合がある」
とされています。
職務質問からの所持品検査における具体的事例
覚醒剤のような禁止薬物は取り締まる必要性が高い犯罪です。
警察官から見て
・Aさんの目が虚ろであり、歩行態様もフラフラとしている
・Aさんの呂律や、会話の態様が異常である
という様な状態であれば、Aさんが薬物中毒者であるかもしれないとの疑いが生じるのは至って自然であり、薬物に関するものを所持していないかを確認する必要があります。
警察官はAさんに対して所持品検査を実施しようとしますが、
・Aさんは、バッグの開披を頑なに拒み、中身を見せないで隠し続けている
というような状態であれば、逃亡後に罪証を隠滅されてしまうおそれもあり、所持品検査をする緊急性があると言えます。
このような状況の中で、警察官がAさんに対して、バッグの中を見ることをハッキリと告げたうえで、バッグを開けて中を一瞥した状況であれば、Aさんの法益への侵害はそれほどではないと言えるでしょう。
上記の事実関係を考慮すると、Aさんの嫌疑を確認する緊急の必要上、承諾を得ずにバッグのファスナーを開披し、中身を見た行為は適法であると判断される可能性が高いと言えます。
警察官がAさんの所持するバッグを力づくで奪い、承諾もなしにファスナーを開披し、さらに中身を見るだけでなく、中に手を入れ、内容物を捜索したという場合には、令状によらない捜索がなされたとして、違法と判断される余地もあります。
弁護活動について
覚醒剤所持事件の捜査の端緒に違法な点があったとして、証拠能力を争う弁護活動についてはよく行われております。
場合によっては、Aさんの有罪を認定するための証拠がない、として、無罪判決や不起訴処分を獲得できる可能性もあります。
まずは、刑事事件に熟練した弁護士の接見を受け、今後の善後策を立てていきましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が覚醒剤所持の疑いで逮捕されてしまった方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部にご相談ください。