執行猶予期間経過後の執行猶予獲得は可能かについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。
愛知県稲沢市に住むAさんは、令和2年7月27日に、盗撮で現行犯逮捕されました。実は、Aさんは、平成26年7月1日に、名古屋地方裁判所で、盗撮により懲役6月、3年間執行猶予の判決(平成26年7月16日自然確定)を受けています。Aさんは接見に来た弁護士に再び執行猶予を獲得できるのか尋ねました。
(フィクションです。)
~執行猶予の種類~
全部の執行猶予は、執行猶予の期間、刑の執行が猶予され、社会内で更生を目指すものです。
これに対し、一部の執行猶予というものがあります。
これは、言い渡された刑の一部の期間は刑務所内で生活し、残りの期間を社会内で生活して更生を目指すというもので、実刑判決の一部です。
Aさんが平成26年に受けた判決は全部の執行猶予付きの判決で、今回もその全部の執行猶予判決を獲得できないか弁護士に尋ねているようです。
そして、全部の執行猶予は、さらに①単なる執行猶予と②再度の執行猶予の2つに分けられます。
~①単なる執行猶予~
①単なる執行猶予を受けるための要件は、刑法25条1項に規定されています。
刑法25条1項
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる
1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を受けた日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
つまり、①単なる執行猶予を受けるには
1 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること
2 上記1号、あるいは2号に該当すること
3 (執行猶予付き判決を言い渡すのが相当と認められる)情状があること
が必要です。
~②再度の執行猶予~
②再度の執行猶予の要件は、〇〇に規定されています。
刑法25条
1 前に禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行の猶予期間中に罪を犯したこと(ただし、猶予期間中に保護観察が付いている場合を除く)
2 1年以下の懲役または禁錮の言い渡しを受けること
3 情状が特に酌量すべきものであること
①の単なる執行猶予と異なる点は、「執行猶予期間中」に罪を犯したことが必要とされる点、「1年以下の懲役または禁錮の言い渡しを受ける」必要がある点、さらに「情状が「特に」酌量すべきもの」である必要がある点、です。
このように、②再度の執行猶予は執行猶予期間中に犯罪を犯したものであることから、執行猶予を受けるための要件のハードルが①単なる執行猶予よりも高くなっていることがわかります。
~執行猶予期間が経過した場合の効果~
では、Aさんは、①単なる執行猶予、②再度の執行猶予のいずれを受けることができるでしょうか?
この点、Aさんは前刑確定日から3年後の平成29年7月15日に執行猶予期間が満了し、その翌日の7月16日から「執行猶予期間が経過した」といえる状態となります。
よって、本件は執行猶予期間経過後の犯行ということになります。
そして、執行猶予期間が経過した場合、刑の言渡しは効力を失い(刑法27条)、経過後に犯罪を犯したとしても、全部の執行猶予の要件につき定めた刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に該当します。
よって、Aさんは①単なる執行猶予を受けれる可能性がある、ということになります。
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