はじめに
近年、ホストクラブ業界の悪質な営業手法が社会問題化しています。
ホストによる高額な売掛金(掛け払い)のツケや、女性客を性風俗店で働かせて紹介料(いわゆるスカウトバック)を得る行為が深刻な問題となっており、これらは「色恋営業」と呼ばれる手法と結びついて顧客の精神的・経済的困窮を招いています。
警察庁のまとめによれば、2024年には悪質ホストクラブ関係者が前年より121人も多い207人摘発されており、女性客に高額なツケを負わせた上で売春などをさせる悪質なケースが後を絶ちません。
こうした状況を受け、政府は対策に乗り出し、令和7年6月(2025年)に改正風俗営業法(風営法)が施行されました。
本記事では、「掛け払い」や2025年施行の改正風営法によって新たに禁止された「色恋営業」「勤務強要」といった行為の具体的な内容と法律上の意味を解説します。
また、茨城県で実際に起きた風営法違反・逮捕事例の概要を紹介し、この法律の背景や目的を説明します。
さらに、風俗店の経営者や従業員、そしてそのご家族が注意すべきポイントについて触れ、万一トラブルになりそうな場合に刑事事件に強い弁護士へ早期に相談する重要性を強調します。
法律用語もできるだけ噛み砕いて説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
改正風営法の背景と目的

改正風営法(正式名称:「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」)は、ホストクラブやキャバクラなどの接待飲食業における悪質な営業行為を取り締まり、被害者を救済する目的で2025年6月28日に施行されました。
背景には、悪質ホストクラブによる「色恋営業」により女性客が多額の借金(売掛金)を背負わされ、その返済のために売春や性風俗店での勤務を強要されるといった被害が相次ぎ、社会問題となっていたことがあります。
実際、ある議員からは,「ホストクラブが若い女性の体で稼がせ続けるのは人身売買のようなもので、先進国とは思えないシステムだ」との批判の声が上がり、トラブルに巻き込まれた女性を救済するために改正が必要だとされたのです。
改正風営法の主眼は、このような悪質な営業手法を排除し業界の健全化を促すことにあります。
具体的には、後述する「色恋営業」や虚偽の料金説明などで客に無理な高額消費をさせる行為を新たに禁止事項として明文化し、さらにホストクラブと性風俗店が結託して女性に借金返済をさせる構造(スカウトバックや勤務強要)を断ち切るための規制と罰則を設けました。
これにより、これまでグレーゾーンだった行為にも、行政処分や刑事罰という形でメスが入り、被害が発生する前に未然に防止することが期待されています。
茨城県での風営法違反・逮捕事例

改正法施行後、この新たな規制に反して摘発されるケースも現れました。
茨城県の報道では、ホストクラブで生じた高額の売掛債務を清算させる目的で女性客に「風俗で稼げるよね」等とLINEメッセージを送り性風俗店で稼働するよう要求する等したとして、飲食店従業員が逮捕される事件が報じられました。
この件については,無許可営業の事案も並行して取り扱われているようです。
これはホストが顧客に対して風俗店で勤務させ、女性に借金返済のための性的な労働を強いる典型的なケースであり、改正風営法で禁止された「勤務強要」やホストへの「スカウトバック」に該当します。
改正風営法の規制強化により、こうした悪質な営業行為に対しても積極的に取り締まりが行われていることが分かります。
今回の茨城県の事案からも明らかなように、改正風営法による新規定は単なる建前ではなく、実際に経営者や従業員の逮捕という厳正な対応に結び付いています。
これまで「業界の慣習」として見過ごされがちだった行為でも、現在は法律違反として刑事事件としての立件や行政指導等の対象となり得るのです。
風俗店を経営されている方やホストクラブなど夜の業界に携わる方は、「自分は大丈夫」と油断せず、次に解説する禁止行為の内容を正確に理解しておきましょう。
「掛け払い」への自主規制

「掛け払い」とは、いわゆるツケ払いのことで、お店での高額な支払いを顧客にその場で払わせず後日精算させる販売形態を指します。
ホストクラブやキャバクラでは昔から「ツケで飲む」という慣習があり、顧客がその場で手持ちがなくても高額ボトルなどを注文できてしまう場合がありました。しかしこの売掛金の存在が、後々トラブルの温床となっていました。
掛け払い自体は違法とされていたわけではありませんが、改正風営法では事実上この慣行に厳しい目が向けられることになりました。
なぜなら、後述する「色恋営業」によって客に無理な高額消費をさせ、結果として払えないツケが膨らむことが問題視されたからです。
法律上は、ホストクラブ等の営業者に対し「料金に関する虚偽の説明」や「恋愛感情に乗じて過剰な飲食をさせる行為」の禁止が明記され、こうした行為が高額な売掛金発生の原因となり得ることが指摘されています。
つまり、客に支払能力を超えるツケを背負わせるような営業は適正化の観点から疑わしいと見られるでしょう。
さらに、掛け払いの結果、生じた未収金を回収するために違法な手段に走るケース(客に風俗店勤務を強要する等)は後述のとおり刑事罰の対象となります。
業界大手でも自主規制で売掛制度を廃止する動きが出始めており、今後は事実上「掛け払い=リスクの高い違法予備行為」という認識で臨むべきでしょう。
経営者はその場で現金決済させるのを原則とし、安易にツケを許さないことが自衛にもなります。
また従業員にも、お客様に対して安易に『払えないならツケでいいよ』などと言うことは避けるよう指導し、健全な会計を徹底しましょう。
規制対象となった「色恋営業」「勤務強要」とは

改正風営法で新たに風俗営業者の遵守事項(守らねばならないルール)、禁止事項として加えられたのが、いわゆる「色恋営業」(遵守事項),「勤務強要」(禁止事項)に関する禁止規定です。
これらはいずれもホストクラブやキャバクラ等の接待飲食業で長年問題視されてきた行為です。
それぞれ具体的にどのような内容が禁止されたのか、法律上の意味を分かりやすく説明します。
色恋営業の禁止とは

「色恋営業(いろこいえいぎょう)」とは、キャバクラ嬢やホストといった接客従業員がお客に対して恋愛感情を抱いていると誤解させることで、来店頻度を上げたり高額な注文をさせたりする営業手法です。
例えば「会いたかった♡」「○○ちゃんだけ特別だよ」などと言葉巧みに好意をほのめかす行為や、店外でも頻繁に連絡を取ることによって、あたかも擬似恋愛の関係を築くことで、顧客に「この人は自分のことが好きなんだ」と信じ込ませます。
そうすることで、お客はもっとお金を使えばさらに相手との関係が進展すると期待し、高価なシャンパンタワーを入れたり頻繁に通ったりして散財してしまうのです。
改正風営法では、この色恋営業に基づく顧客を困惑させる遊興・飲食の要求が明確に禁止されました。
具体的には、法律の条文上「客が従業員も自分に好意があると誤信していると従業員が知りながら、それに乗じて行う行為」として以下のような行為が挙げられています。
• 関係破綻を示唆する発言:
例えば「お金を使わないなら関係は終わり」「タワーを入れてくれないならもう会えない」といった言葉で、お金を使わなければ築いた関係が壊れてしまうと思い込ませる。
• 従業員の不利益を匂わせる発言:
例えば「売上が足りないと降格になってクビになる、助けてほしい」「君がボトルを入れてくれないとペナルティを受ける」といった形で、従業員が困るから助けてあげなくてはと客に思わせる。
これらはいずれも客の恋愛感情や同情心につけ込み、客を困惑させて高額な遊興・飲食をさせる典型的な色恋営業の手口です。
改正法では、こうした行為を接待飲食業者の「遵守事項」(守るべきルール)として禁止し、違反した場合は公安委員会から営業方法の改善指示や営業停止・許可取消しといった行政処分の対象となります。
長年「グレー」とされてきた色恋営業ですが、今後は明確にアウトです。
「お客様を喜ばせるためのリップサービス」と思って安易に上記のような発言をすると、結果的に店ごと営業停止や最悪の場合は閉店に追い込まれるリスクがあります。
なお、色恋営業そのものには直接の罰則規定はないものの、その結果として顧客に過大な債務を負わせてしまう場合や、トラブルとなって他の犯罪(詐欺や恐喝、強要など)に発展した場合には従来通り刑事責任を問われ得ます。
また、この禁止規定により業者に改善指示が出ているのに従わず、営業停止処分がなされたのにさらに営業を続けたとなれば、無許可営業となり従来通り拘禁刑または罰金刑など刑事罰が科されることになります。
経営者の方は「うちはそこまであくどい営業はしていない」と思っていても、従業員が色恋まがいのセールストークをしていないか注意し、健全な営業指導を徹底しましょう。
勤務強要(売掛金回収のための労働強制)の禁止とは

「勤務強要」とは文字通り勤務を強制することを指しますが、今回の改正風営法の文脈では、主にホストクラブでできたツケ(未払いの飲食代金)を回収する手段として、女性客に風俗店で働かせることを強要する行為を指します。
例えば、ホストに入れ込んで数百万円の売掛金を抱えてしまった女性に対し、「このままじゃ返せないよね?風俗店で働いて返済しなよ」などと迫り、風俗店(デリヘルやピンサロなどの性風俗店)を紹介して実際に働かせるという、人身取引にも近いような行為が報告されており、改正法によって明確に禁止・処罰の対象となりました。
改正風営法では、ホストクラブ等の営業者が、顧客に対して売掛金を回収するために顧客に売春をさせる、性風俗店で働くよう要求することを禁止し、これに違反した者には6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(またはその両方)という刑事罰が科されます。
ここでいう要求とは、脅して強要するのはもちろん、「働けばすぐ返せるよ」「〇〇店なら高収入だから紹介してあげる」「売り上げ一位になれたら君と結婚するから二人で頑張ろう」等と甘言で誘惑するようなケースも含まれます。
要するに、売上金のカタに客に淫らな行為をさせてはならないということであり、これはホストクラブ業界に蔓延していた悪質な搾取の構造を断つための強力な措置です。
また、これと並んで「スカウトバック」の禁止も盛り込まれています。
スカウトバックとは、ホスト等が自分の客(多くは多額の売掛金を負った女性)を風俗店に紹介し、その店から紹介料(バックマージン)を受け取る行為です。
改正法では性風俗店側に対しても、ホストから女性を紹介され見返りに金銭を支払うことを禁じ、罰則の対象としました。
勤務強要やスカウトバックに関与する行為は、従来から職業安定法違反(有害業務斡旋)や売春防止法違反、強要罪などとして摘発されてきました。
改正風営法によってこれらが明記されたことで、ホスト側(勤務強要の禁止)・性風俗店側(スカウトバックの支払禁止)の両方に対してそれぞれ罰則が科せられる可能性があり、違法行為を取り締まる網が広がった形です。
ホストクラブや風俗店の関係者は、「うちは紹介しただけ」「本人の同意があった」などと弁解は通用しない時代になったと認識しましょう。
顧客が見かけでは同意していたとしても、性風俗店での勤務を促すこと自体が違法とみられる可能性があるのです。
借金の肩代わりに働かせるような行為は厳禁であり、万一そのような話が持ち上がったら直ちにやめるべきです。
経営者・従業員とその家族が注意すべきポイント

改正風営法による規制強化を踏まえ、風俗営業に携わる皆さん(経営者・従業員)やそのご家族は以下の点に十分注意してください。
• 経営者:
自社の営業方針・接客マニュアルを見直し、色恋営業まがいのトークや売掛の容認は禁止する旨を明文化しましょう。
従業員には新しい法律の内容を周知徹底し、日々の営業で違法な行為が行われていないか監督する責任があります。
特に、店長やオーナーは従業員の売上ノルマ達成のために違法手段に走らないよう指導し、「お客様に借金をさせてはいけない」ことを強調してください。
万一、指導や警告を受けた場合は速やかに改善策を講じる必要があります。
これに従わずに営業停止処分などを受けてしまうと事業継続が困難になる点にも注意が必要です。
• 従業員:
キャスト(ホスト・ホステス)や店舗スタッフの方も他人事ではありません。
売上を伸ばそうとするあまり「もう会えなくなるよ」などと誘惑し困惑させる行為や、「勝手注文」のような無理な高額注文を取ろうとする行為は法律違反になり得ます。
悪質だと判断されれば、あなた自身が逮捕されるという可能性もゼロではありません(実際に改正前の法律でもホストが恐喝容疑などで逮捕された例もあります)。
また店舗から違法な営業を強要された場合でも、加担すれば共犯的な立場に陥る危険があります。
「ルールに反することはできません」と毅然と断る勇気を持ちましょう。
不安な点があれば信頼できる先輩や弁護士に相談し、自分を守ることが大切です。
• 家族:
ご家族が風俗店を経営・勤務されている場合は、今回の法改正によって何が禁止されたのかを家族間でも共有してください。
とくにご家族がホストクラブ経営者やホストとして働いている場合、日頃から言動に注意するよう助言しましょう。
本人は大丈夫と思っていても、知らずに法律違反となる行為をしてしまう可能性があります。
また、もし家族が突然警察に逮捕された・家宅捜索を受けた等の事態になったら、すぐに弁護士に連絡するなど迅速に対応する準備も話し合っておくと安心です。
逆に、ご家族がホストクラブの常連客になって多額の借金を抱えているような場合も注意信号です。
「色恋営業の被害に遭っているかもしれない」と感じたら放置せず、早めに専門家へ相談するよう促してください。
刑事事件に強い弁護士へ早期の相談を

改正風営法の施行により、風俗店業界はこれまで以上に厳しい法的規制の下に置かれることになりました。
違反行為に対する摘発も強化されています。
そのため、万一トラブルや違反の疑いが生じた際には、できるだけ早く弁護士に相談することが非常に重要です。
特に、刑事事件に強い弁護士であれば、この種の案件でどのような対応が最善か熟知しています。
早期に相談するメリットやタイミングの目安は次のとおりです。
• 相談すべきタイミングの例:
①公安委員会や警察から指導・注意を受けた、または聴取の要請があったとき
②従業員や周囲から「違法ではないか」と指摘される行為に心当たりがあるとき
③お店の関係者が逮捕・送検された、またはその可能性があると感じたとき
④家族が逮捕されたので対応に困っているとき
このような場合は一刻も早く専門の弁護士に相談してください。
時間が経つほど状況が悪化し、打てる手が限られてしまうことがあります。
• 早期相談のメリット:
弁護士に早めに相談すれば、警察の事情聴取への同行や適切な受け答えの指導を受けられます。
下手に自己判断で動いて状況を悪化させるリスクを減らせるのです。
また、逮捕・勾留といった事態になった場合でも、迅速に動けば身柄の早期解放(勾留阻止や保釈請求)を実現できる可能性があります。
さらに、弁護士を通じて被害者(ここでは多額の請求をされたお客様等)との示談交渉を行い、刑事処分の軽減を図ることも考えられます。
刑事事件に強い弁護士は警察・検察の動き方も熟知しているため、見通しを立てた上で今後の戦略を立案してくれるでしょう。
何より「法律のプロが味方についている」ことで精神的な支えとなり、経営者ご本人やご家族の不安を和らげる効果も大きいはずです。
顧問契約について

風俗店経営者の方にぜひ検討いただきたいのが、日頃から弁護士と顧問契約を結んでおくことです。
法律専門家を顧問に迎えておくと、以下のような利点があります。
• コンプライアンス体制の強化:
改正風営法をはじめ関連法規について、事前に弁護士からレクチャーを受けたり、店内ルールをチェックしてもらったりできます。
顧問弁護士がいれば、営業マニュアルの整備や従業員研修へのアドバイスも受けられ、違法行為の未然防止につながります。
• トラブル発生時の迅速対応:
万が一の事件発生時にも、顧問弁護士であれば事情を把握している分、すぐに適切な対応策を講じることができます。
深夜の急な逮捕や家宅捜索といった非常事態でも、顔なじみの弁護士に電話一本で相談できる安心感は計り知れません。
初動対応の迅速さは刑事事件では結果を大きく左右します。
• 精神的安心と信用力向上:
顧問弁護士が付いているということ自体が社内外への安心材料となります。
従業員にとっては「法律違反ができない職場なんだ」という意識づけになり、抑止力となります。
また取引先やお客様から見ても、法令順守に努めている企業という信用力の向上につながるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、風営法違反を含む刑事事件に強い弁護士が多数在籍する法律事務所です。
当事務所ではホストクラブ・風俗店業界の事情にも精通した弁護士が、ご依頼者の立場に寄り添いながら最善の解決策を追求します。
顧問契約のご相談も随時承っており、実際に夜職関係の企業様からもご相談をいただいております。
「もしかして法律に触れるかも」「万一の時に備えておきたい」と感じたら、ぜひお早めに専門弁護士までご相談ください。
早期の相談・対応こそが、事態の悪化を防ぎあなたやご家族の人生を守る鍵となります。
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