職務質問に伴う所持品検査

職務質問に伴う所持品検査について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。

【事件】

愛知県名古屋市千種区で強盗事件が連続して発生していたため,千草警察署は警らする警察官を増員し犯人逮捕に努めていました。
ある日,Aさんは千草区内の路上で職務質問を受けました。
Aさんは警察官からバッグの中を見せるよう要求されましたが拒否しました。
すると警察官はAさんのバッグを渡すよう要求し,それも拒否すると半ば無理矢理バッグを奪い取り所持品検査を始めました。
バッグの中から強盗被害にあった物品とよく似た物が出てきたため,Aさんは千草警察署に同行するよう指示されました。
(フィクションです)

【所持品検査】

職務質問とは,警察官職務執行法(以下「警職法」といいます)第2条の定める要件の下で認められる,警察官が挙動不審者等に対して行う停止・質問行為のことをいいます。

警職法第2条第1項
警察官は,異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪につ
いて,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

職務質問における質問行為はあくまで任意で,質問対象者が重大な権利の侵害や不利益を被る強制にわたらないように行われなければならないのが原則です。

他方で,任意に行われなければならないとされつつも,腕を掴んで引き留めるなど一定程度の有形力の行使も認められています(最決昭和29・7・15刑集8巻7号113 7頁など)。

職務質問は犯罪の発生を必要的要件としておらず,警職法の目的からしても本来的には広く犯罪の予防や公安の維持のために行われる行政警察活動とされています。
ただ,現実としては職務質問から犯罪の捜査が行われていることもしばしばあり,特定の犯罪を検挙するための捜査活動(司法警察活動)としての側面を持つこともあります 。

捜査活動として行われる職務質問では,証拠を発見するために必要な活動も付随して行われることがあります。
Aさんが受けたような所持品検査がまさにそれに当たります。

職務質問は原則として任意で行われなければならず,行き過ぎた職務質問に由来する証拠は違法収集証拠として排除される場合もあります(東京高判平成8・9・18判タ1 273号338頁)。

ここで,職務質問については先述のとおり警職法に定めがある一方,所持品検査についてはそれを明確に規定する条文がありません。
そこで,所持品検査にはどのような形態があり,どのようなものが適法あるいは違法となるのかが問題となります。

所持品検査のとしては,法益侵害の程度が軽いものから

①所持品を外部から観察し所持品について質問する行為
②相手方に内容物について開示を要求する行為
③衣服・携帯品の外部から手を触れて検査する行為
④警察官みずから衣服の内側やポケットの内部,その他かばんなどの携帯品を開披し所持品を取り出し検査する行為

の4つが考えられます。

所持品検査についてのリーディングケースである最判昭和53・6・20刑集32巻4号670頁によると,一般論として「所持人の承諾のない限り所持品検査が一切許され ないと解するのは相当でなく,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,所持品検査においても許容される場合がある」とされています。

しかし,所持品について捜索・押収を受けない権利は憲法第35条によって保障されていることから,このような行為が許されるのは「所持品検査の必要性,緊急性,これに よって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ,許容される」としました。

昭和53年判決が出ることになった事件は,深夜銀行強盗事件の検問の現場を通りかかった被告人らが職務質問に黙秘し,所持品であるボウリングバッグの開披を要求し,結果として警察官が承諾なしにボウリングバッグのファスナーを開披したというものです。

この事件では,上記の判決によって承諾を得ず行われたファスナーの開披行為を「職務質問に付随する行為として許容される」とされましたが,別の事件で承諾なしに上着の内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出した上で検査した行為は「所持品検査の許容限度を逸脱したもの」とする判決(最判昭和53・9・7刑集32巻6号1672頁)が出ています。

Aさんのケースでは,質問を受けた場所と同じ千種区内で強盗事件が連続して発生していたことが所持品検査を正当化する事実としてあげられますが,Aさんが警察官からの質問にどう対応していたのか,事件現場との距離がどの程度だったかなど、他の事情によってはAさんが受けた所持品検査が違法であると主張できる可能性もあります。

Aさんのみならず,刑事事件の依頼を受けた弁護士は犯罪となるべき事実だけを争うのではなく,場合によっては捜査機関の捜査が適法に行われたのか,提出された証拠が違法収集証拠に当たるのではないかということも争うことがあります。
このように刑事事件は民事事件などとは異なった専門的な知識や手腕が問われますので,もし刑事事件の被疑者となってしまった場合にはお早めに刑事事件に強い弁護士に事件を依頼することが重要です。

違法と思われる職務質問で犯罪の被疑者となってしまった方,千種警察署で取調べを受けることになってしまった方は,刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部にお早めにご相談ください。

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