私文書偽造事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説いたします。
【事案】
現職国会議員に成り済まし新幹線のグリーン券をだまし取ったとして、詐欺と有印私文書偽造・同行使の罪に問われた元参院議員の被告人に、名古屋地裁は、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。
起訴状などによると、被告人は有効期限が切れた国会議員用鉄道乗車証(JR無料パス)を東京駅の駅員に示し、議員用申込書に現職議員の氏名を記入して提出、東京-名古屋間の新幹線特急券・グリーン券計5枚(計4万2900円相当)をだまし取ったなどとしている。
(神戸新聞「元参院議員に有罪判決 新幹線グリーン券詐取で」(2022/12/7)を引用・参照)。
【私文書偽造罪(及び同行使罪)について】
刑法では文書に対する公共の信頼を保護するために、「文書偽造の罪」(刑法154条〜161条の2)を規定しています。
その中でも重要なのが、公文書偽造罪(155条)及び私文書偽造罪(159条)です。
本事案では、後者の「私文書」の偽造が問題となっているため、後者について解説していきたいと思います。
私文書偽造罪において特に問題となるのが、「偽造」の要件です。
「偽造」とは、判例上、文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽ることを言うと解されています(最判昭和59年2月17日)。
上述したようになぜ「偽造」の要件が問題となるかと言うと、この定義に照らすと本事案における文書である議員用申込書の名義人(文書の作成者と認識される者)は被告人であり、作成者(意思の表示主体)もまた被告人であって、人格の同一性は維持されているようにも思われるからです。
しかし、本事案のように国会議員という資格・肩書を冒用した場合には、「偽造」該当性を判断するに当たってはその文書の性質等をも考慮するべきだと考えられています。
議員用申込書という文章の性質を考えてみると、これが国会議員の資格・肩書を持った者が作成することが当然の前提となっている文書だということは比較的明らかだと言えるでしょう。
そうすると、本文書から作成者として認識される者は、現職国会議員である被告人であり、かかる名義人と作成者である現実の元国会議員である被告人とは国家議員であるか否かという点について人格の非同一性があると言えます。
したがって、被告人は「公使の目的」を持って「他人の印章もしくは署名を使用」して文書を「偽造」し、これを「行使」していることから有印私文書偽造・同行使罪(159条1項前段・161条)が成立することになります。
なお、本事案でもそうであるように私文書偽造・同行使罪の多くは財産犯(第36章〜40章)を行うための手段として行われることが多い犯罪だということに留意が必要です。
【私文書偽造事件の裁判例などについて】
本事案では、被告人に「懲役2年、執行猶予4年」の有罪判決が言い渡されています。
私文書偽造・同行使が問われた近時の他の事案をみてみると、資金の不正流出に関連する事件で、預金通帳などを偽造したとして有印私文書偽造などの罪に問われた被告人に対し、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決が下されています。
この事案では、被告人は私文書偽造の他にも疑いのあった業務上横領については不起訴となっており、主として私文書偽造の罪が問われた点に特色があります。
本事案もそうですが、私文書偽造事件の多くが財産犯と絡んで刑事責任を問われることの多い事件類型であるため、財産犯に関する起訴前の弁護活動なども重要性を帯びてくることになるといえます。
起訴前の捜査段階における弁護活動の質が、その後刑事処分の多寡に影響を及ぼす可能性があるため、早い段階から質の高い刑事弁護活動を受けることが被疑者・被告人にとって大きな利益になるのです。
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