誤振り込みから犯罪に?

2020-05-13

誤振り込みから犯罪に?

誤振り込みされたお金を降ろして犯罪が成立しうるケースについて,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所名古屋本部が解説します。

【事件】

愛知県一宮市に住むAさんは自身の銀行口座にV名義の口座から約10万円の振り込みがあったことに気付きました。
身に覚えのなかったAさんですがつい出来心でこのお金を引き出し遊興費として使ってしまいました。
後日,誤振り込みをしてしまったことに気付いたVさんが銀行に問い合わせ銀行から一宮警察署に被害が届けられました。
Aさんは福岡県警察西警察署で事情を聞かれることになっています。
(フィクションです)

【誤振り込み】

誤振り込みされたお金を窓口で引き出した場合,詐欺罪が成立する可能性があります。

刑法第246条
第1項 人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
第2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,前項と同様とする。

判例(最決平成15・3・12刑集57巻3号322頁)は,被告人が自己の口座に誤振り込みがあったことを知りながら銀行に誤振り込みがあったことを告げず払い戻しを受けた事件について詐欺罪が成立するものとしました。
以下では,その理由をかいつまんで説明します。

前提として,誤振り込みにより金銭が振り込まれた受取人は,銀行に対して振り込まれた金銭を引き出すことを民事上請求できるとされています。
つまり,銀行としては,誤振り込みされた金銭であってもその引き出しを要求されたら応じなければならないということです。
そうすると,受取人は銀行に対して当然に誤振り込みされた金銭の引き出しを求めることができるとして,犯罪の成立は否定されるようにも思えます。

しかし他方で,誤振り込みの事実が発覚した際,銀行は誤振り込み前の状態に戻すべく様々な手続を行う必要があります。
受取人としても,誤振り込みの事実を知った以上はそのことを銀行に伝えるなど誠実に振る舞うべきだと言えます。
以上のような事情から,受取人には,振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があることが導かれます。

それにもかかわらず,受取人が誤振り込みの事実を隠してお金の引き出しを求めることは,言うべきことを言わずに相手方を騙す点で欺罔行為(刑法246条における「人を欺いて」の部分)に当たると評価できます。
そして,そのような行為により銀行の係員が正当な払戻しだという勘違いに陥り,金銭の払い戻しに応じれば,「財物」の「交付」もあったとして詐欺罪に当たるのです。

さて,以上の説明は,ATMでお金を降ろしたケースにおいては妥当しないと考えられています。
その理由は,詐欺罪は人を錯誤に陥れてこそ成立するものであって,ATMのような機械が相手なら錯誤が観念できないからです。
では,ATMで誤振り込みされたお金を降ろしても犯罪は成立しないかというと,そうとは考えられていません。
可能性のあるものとしては,電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)または窃盗罪(刑法第235条)のいずれかがだとする見解が有力です。
電子計算機使用詐欺罪の法定刑は詐欺罪と同様で,窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。

【弁護活動】

Aさんから依頼を受けた弁護士は,事件のことをどのように警察に話したらよいのか,今後予想される手続はどのようなものか,考えられる弁護活動は何か,などをAさんに説明します。
今回のような詐欺事件ですと,有力な弁護活動として,やはり被害者との示談が挙げられます。
被害者との間で示談が成立し,処罰感情の軽減をアピールできれば,事件によっては不起訴処分を獲得できる可能性が出てくるでしょう。

今回のような誤振り込みのケースでは,示談を行うにあたって注意しておくべきポイントがあります。
それは,誤振り込みをして金銭を失った方だけでなく,誤振り込みされた金銭の引き出しに応じた銀行も被害者となりうることです。
なぜかというと,先ほど説明したように,理論的に詐欺罪の相手方となるのは銀行だからです。
ただ,だからといって,直ちに銀行と示談すべきかというとそうとも限りません。
この点については専門的で複雑なことが少なくないので,弁護士からアドバイスを受ける方が安心だと言えるでしょう。

謝罪や示談交渉が実を結ぶためには,場合によっては多くの時間がかかることもあります。
刑事事件はスピードが肝になることが多いので,事件の内容を問わず,早期から弁護士のアドバイスを受けておくことをおすすめします。

誤振り込みされたことを銀行に伝えずお金を使ってしまった方,詐欺事件の被疑者となってしまった方,一宮警察署で取調べを受けることになってしまった方は,お早めに刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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